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体の中から健康に!「医食同源」を体現する人気店3選

医食同源

「医食同源」の基本となる考え方や食材、スパイスなどを、中国、そして韓国の料理から学びます。

【東京・六本木】美林華飯店 中国料理

医食同源の考えに基づく王道の中国料理を、ひと皿ずつ提供する
美林華飯店 福永培華さん

 東京メトロの六本木1丁目駅から歩いて5分あまり。歴代の総理大臣や著名人が顧客名簿に名を連ねる美林華飯店は、北京、四川、上海、広東という中国料理の地域分類を超えて、幅広い中国料理が楽しめることで知られる。
 美林華飯店の料理の底流にあるのは、中国で脈々と受け継がれてきた「医食同源」の思想。つまり、日頃からバランスのとれたおいしい料理を食べることで、病気を予防し、悪いところを治療していくという考え方である。

四季の食材が基本。食べ物で降圧作用や免疫力アップも

 広州や上海は中国大陸の南部。海に面しており、四季折々の野菜や海の幸が豊富なので、常に旬の食材を食べることで体調を整えていく考え方が一般的だ。
 対して、北京や四川は内陸に位置し、冬の寒さは厳しい。そこで、唐辛子などの香辛料を使った、体を温める料理が多い。
 国土が広いため、医食同源が基本と言いながら、各地域の料理も、その気候風土に合わせて独自に発展していったといえよう。
 しかし、日本では、広東料理や上海料理のように、食材の味を活かした優しい味わいの料理も、ピリッとスパイスの効いた強い味の料理も、一度に両方楽しみたいというお客は多い。
「それに、コース料理のときは、それぞれの組み合わせによって、味に変化がつけられます。さまざまな理由から、私どもの店では、地域分類を超えた中国料理を出すようになりました」

牛肉は、体を冷やす食材でも温める食材でもない、「平性」の食材だから、1年を通して使いやすい。

美林華飯店牛肉の味噌炒め
牛肉の味噌炒め
キノコや赤ピーマン、緑ピーマン、セロリを細切り牛肉と炒めて、ピリ辛に味付したひと皿。そのまま食べてもよし、クレープに包んで食べてもよし。セロリのシャキシャキした食感がいい。

オーナーシェフの福永培華さんは、こう説明する。今回紹介する2品の料理も、まさに好対照だ。
 緑と赤のピーマン、キノコ、セロリ、牛肉を炒めて、甜麺醤と海鮮醤、豆板醤で味をつけた「牛肉の味噌炒め」は、ピリ辛で味が強い。
 材料ひとつのキノコは、免疫力の強化や自然治癒力を向上させる。セロリは血圧を下げたり、ストレスが原因で起こるさまざまな不調をやわらげてくれる働きがあるという。牛肉も、病気に対する抵抗力を高めてくれる食材といわれる。
 一方の「サトイモのネギ炒め」は、サトイモとみじん切りにしたネギを炒め、水溶き片栗粉でとろみをつけ、塩と砂糖で味をつけ、最後に胡麻油で風味を出しただけの優しい味のひと皿だ。

「サトイモは、健康にいい食材。消化機能を助け、体を丈夫にして病気に対する抵抗力を高めてくれるといわれています」
 中国では、ガンに罹患した患者が毎日サトイモを食べ続けたら、3カ月後にはガンが消えた、という話もあるくらい、と福永さんは言う。
 ネギも、体を温めて発汗を促すことから、風邪の初期や冷えによる腹痛の治療に用いられてきたという。
 美林華飯店の人気料理で、10月中旬から12月にかけてベストシーズンを迎える上海蟹も、体を温めてお腹の冷えをとる働きがあるといわれている。

美林華飯店
サトイモのネギ炒め
見た目同様、優しい味わいが嬉しいひと皿。サトイモのねっとりとした食感とネギのシャキシャキとした食感が、互いの良さを引き立て合い、健康を増進する。

中国料理の王道を守りつつ柔軟に変化させて進化してきた

 そんな王道の中華を提供する美林華飯店だが、伝統を守っているばかりではない。時代の移り変わりに応じて、変えてきたこともある。
「例えば、今回お出しした牛肉の味噌炒めも、昔はセロリは入れませんでした。でも、食感やバランスを考えて、入れるようになった。伝統を守りつつ、今の時代に合わせていくことも必要だと思います」

それは、料理の提供の仕方にも現れている。
美林華飯店では、大皿料理は基本的に出さない。西洋料理のように洋風の食器に料理を盛り付け、コース料理のようにして、ひと皿ずつゲストにサーブする。
「最近のお客さまのなかには、同じ皿から料理を取り分けることに抵抗感のある人も多くなりました。それを感じて、このようなスタイルをとるようになったんです」
オーソドックスな中国料理が、サーブの仕方を少し変えただけで、洗練された料理に変身する。柔軟に対応することで、旨さに定評のある福永さんの料理がさらに輝きを増す。
 長い歴史に磨かれた中国料理は、あらゆる面で奥が深い。

東京・六本木 美林華飯店 福永培華さん
Baika Fukunaga
上海出身。1989年に「中国飯店」の招聘で来日。以来18年間、「中国飯店六本木店」で総料理長を務める。2007年に「美林華飯店」をオープン。福永さんの味に惚れ込んで、足を運ぶ著名人も多い。
美林華飯店

美林華飯店
東京都港区麻布台3-4-10 麻布誠工社ビル2F
03-3453-8718
● 平日11:30~15:00、17:30~23:00(22:30 LO) 土日17:30~22:00(21:30LO)
● 無休
● コース 5000円~
● 48席


山内章子 = 取材、文 星野泰孝 = 撮影 
text by Shoko Yamauchi photos by Yasutaka Hoshino

【東京・銀座】尹家 韓国宮廷料理

若い世代に〝本当の〟韓国料理を。「韓方」に学ぶ健康への知恵
尹家 尹 美月さん

 5、6世紀頃に中国から「漢方」が日本へ伝来し、気候や風土に影響を受けながら、この地に馴染み発展を遂げた。同じように朝鮮半島へ伝わり、研究され発展したのが「韓医学」、別名「韓方」であり、その伝統は現在も健在である。「尹家」オーナーシェフの尹美月さんは、そうした医食同源に基づく〝本当〟の料理を食べて欲しいと日本で奮闘している。

体のバランスをととのえる 韓国料理は〝辛い〟だけじゃない

 日本で韓国料理といえば「焼肉」をイメージする人が多い。もう少し踏み込んでも「、サムギョプサル」などの肉料理、あるいは「キムチチゲ」などの真っ赤な辛い料理を思い浮かべるだろう。しかし尹さんは言う。「韓国料理はただ辛いだけではないんです。韓国の伝統料理は優しい味だ、ということを知らせたい」
 むしろ韓国は野菜料理の国と言ってもいいくらい、野菜を食べる。「野菜や果実、山菜などの素材を活かして、身体に良い優しい味をいかに出すかを常に考えています」

和牛トッカルビ 薬膳サラダ添え
和牛トッカルビ 薬膳サラダ添え
トッカルビの「トッ」は日本語で餅を意味する。お肉をナシやニンニクなどと和え、餅のように丸い形にととのえてから炭火で加熱する。付け合せに、シイタケや栗など季節の野菜のソテーを添えて。

 韓方薬の考えを駆使して尹さんが調理してくれた「和牛トッカルビ・薬膳サラダ添え」は、ナシやヤマイモを牛肉と和え、ナシをベースにしょうゆ、長ネギ、ショウガを入れたソースを肉団子に塗りながら、炭火で焼き上げるひと皿。肉のやわらかさに驚く。「牛肉とナシの組み合わせは韓国ではテッパン。ナシは肉の毒消しをしてくれるんです」と尹さん。付け合せには高麗人参、ナツメ、松の実、アスパラガスを軽く炒め、季節の野菜を添えた。

韓国料理は時間をかけて作る、日々毎日の医食同源。待たないと本当の味は出ない。

 2品目は「薬膳スープ」。昆布でとった出汁に芍薬(しゃくやく)をあわせ、魚はタイを使い味に深みを出す。そこにニンジン、春菊、マイタケなど何種類もの野菜を入れた健康スープだ。白芍薬は肝臓の機能とエネルギーのバランスをとるとされ、夏の疲れを癒す。あっさりした味付けながら、体に染み入るような滋味を感じる。「例えば、私の大好きな京都のお料理は、味はそんなに主張しないのに、しっかりとしていて奥行きがある。韓国の伝統料理も、そんな京都の料理と似ていると思います」
 味付けは塩、しょうゆが主で、出汁は昆布。韓国も昆布をたくさん使う。薬膳の考えを入れて、肉なら肉、魚なら魚の旨味を出す。
「韓国の伝統を守りながら、現代人に好まれるよう洗練させたいんです」

薬膳スープ
薬膳スープ
昆布でとった出汁に、肝臓を休め、鎮痛作用もあるとされる芍薬(シャクヤク)を入れて煮立たせる。優しい味わいのスープが、夏の猛暑で疲れた内臓を癒してくれる。

何よりも、自分あっての進化。伝統料理の知恵と魅力を発信

 カニをしょうゆだれに漬け込む料理「カンジャンケジャン」は、「尹家」の看板料理のひとつ。通常はワタリガニを使うが、「尹家」では北海道産の毛ガニを使う。毛ガニには高い抗酸化作用があり、血管を健康に保ち、免疫力を高める。
「北海道の毛ガニの甘味と旨味が、しょうゆだれととても合うんです」日本の良質な食材を、韓国の伝統料理に織り交ぜることで、おいしさと健康の相乗効果を生むのだ。
 尹さんは、1976年から伝統キムチ作りに従事し、韓国料理の潮流を見つめてきた。最近は、自国の料理が変わってきていると感じる。「日本で韓国の伝統料理が少しずつ広がっている反面、帰国してみると、韓国料理がアイデンティティを失いつつあるような気がします」
「フュージョン」と呼ばれる、どこの国の料理なのかわからない料理に注目が集まっている。「でも、何よりも自分あっての進化。この店を通して、それを伝えていきたいです」。
 今日も尹さんは銀座の厨房に立ち、先祖から受け継いだ知恵の詰まった韓国料理を発信しつづける。

東京・銀座尹家尹美月さん
Yun Miwol
1957年韓国・忠清道生まれ。1985年韓国キムチを輸入する(株)美山に入社し、その後13年間キムチの品質管理を担当。 2000年にキムチの製造・輸出を行う(株)健食貿易を立ち上げ現在に至る。2013年に開店した「尹家 銀座」は日本で唯一、韓国料理でミシュラン二ツ星を獲得。
尹家 銀座

尹家 銀座
東京都中央区銀座8-5-1 プラザG8ビル1F
03-6228-5167
● 12:00~15:00(14:30LO)17:00~23:00(22:00LO)
● 年中無休
● コース 16000円、20000円、30000円
● 16席
www.yunke.co.jp


料理王国 = 取材、文 中西一朗 = 撮影 
text by CUISINE KINGDOM photos by Ichiro Nakanishi

【東京・神田】味坊 中国・東北料理

ビオワインと一緒に楽しむ羊料理は、体と心を温める中国・東北地方の郷土料理
味坊 梁宝璋さん

 食べる物にこそ活力の源があるとする「医食同源」の考え方は、中国で生まれた梁さんのDNAにすり込まれている。とくに梁さんが生まれ育った東北地方は、モンゴル平原に近い場所で、冬はマイナス35度にもなる厳寒の地。野菜の収穫は秋に済ませ、雪が積もると、肉や豆腐などのタンパク源とともに雪中に保存する。東北地方に暮らす人々は、先人の知恵に感謝して、体を温めるためのさまざまなスパイスや食材を活用して、厳しい寒さを乗り越えてきたのだ。それは、先人たちの家族への愛情。その愛情が育んできた東北料理は、それを作る梁さんの温かな人柄と相まって、今、日本で季節を問わず、多くの人に親しまれている。

豚バラ肉と白菜漬け煮
豚バラ肉と白菜漬け煮
豚骨のだしの中に、豚バラ肉、自家製白菜漬け、春雨を入れて煮込む。豚肉の脂の甘さと白菜漬けの酸味がバランスよく口の中で調和する。ハッカク、花山椒、仕上げにのせたパクチーが旨味を引き立てる。

日本風にアレンジしてスープのコクと旨味を出す

 梁さんが東京の神田駅近くに「味坊」を開いたのは15年前。日本に来たのはそれより3年前で、最初はラーメンやチャーハン、ギョウザが中心のごく一般的な中華料理屋だった。やがて日本から中国に赴任する会社員が増えると、彼らは帰国後、本場の味を懐かしんだ。そんなゲストにせがまれて、裏メニューとして作っていたのが東北地方自慢の羊料理。しかし、「日本人の求める味はこれだ」と直感した梁さんは、その店を閉めて神田に移転。新たに東北料理専門店「味坊」をオープンさせたのだ。

ラム肉のクミン風炒め
ラム肉のクミン風炒め
「味坊」の人気メニューのひとつで、クミンの香りをまとって香ばしく焼けたラム肉の辛さは、一味唐辛子による味付け。クミンは梁さんがもっとも使う調味料で、食欲を増進させ、消化を高める効果があるとされる。

 メインは羊料理で、やわらかなラム肉の肩ロースを使ったしゃぶしゃぶや串焼き、炒めものに人気が集まる。ラム肉に欠かせないのはクミン。その使い方も絶妙で、このほか、ハッカク、ナツメ、チンピ、ケイヒ、トウキなど、何十種ものスパイスや乾燥した薬用植物を料理に使う。
ラム肉はすぐれた高タンパク食材。ミネラル、鉄分、ビタミンB1・B2が豊富で、体をあたためて体力の不足を補う。コレステロールの含有量が低いうえに、脂肪燃焼を促すカルニチンも含まれている。

「味坊」の常連客は、羊料理をビオワインとともに楽しむ。料理に合わせて、スパイシーな赤ワインを選ぶゲストが多いが、よく冷えた白にもロゼにも、梁さんの羊料理は合う。「郷土の味を大切にしていますが、ワインとのマリアージュは日本ならではですね」と梁さん。「旨味を重んじる日本人は、コクのある味わいが好きだから」と、ラム肉のしゃぶしゃぶ用スープは日本人向けにアレンジしている。母国では湯を使うところ、「味坊」では豚骨でだしをとり、さらに豚バラ肉でコクを加えたスープを使っているのだ。

味坊 炭火羊鍋
炭火羊鍋
「味坊」の看板メニューのひとつ「炭火羊肉鍋セット(ラム肉のしゃぶしゃぶ)」1人前1500円。ラム肉の薄切り、白菜、ダイコン、水菜、豆腐、春雨などをコクのある豚骨スープに通して食べる。スープには薬膳に使うトウジン(血圧を下げる作用などがある)、クコシ(ビタミン豊富)、ナツメ(鉄分やカルシウムを含む)などを使っている。

 ただし、鍋料理で「絶対に変えないと決めている」ことがある。それは銅鍋を使い、炭で調理すること。現在は中国でも、ガスや電気の鍋で提供するモダンな店が増えているが、梁さんは、あくまでも昔ながらの炭にこだわり、銅鍋は北京から仕入れている。
「炭を使った時の熱の伝わり方と、電気やガスとは違う。調味料や食材だけでなく、調理法にこだわることも大切だと思います」
 この言葉通り、たとえば鍋に入れる豆腐は一度冷凍してから使う。「故郷では、豆腐を雪中で保存していました。冷凍期間は長いほどよく、水分が抜けてスポンジのようになる。これがスープをよく吸って、とてもおいしいのです」
 日本でも鍋が恋しくなる季節。梁さんの料理とやさしい笑顔が心身ともに和ませてくれるだろう。「医食同源」が、人間のために人間が考え出した知恵なら、それを伝える人もまた、愛ある人であってほしい――。
「味坊」を訪れるゲストはそれを求めて、今日も店にやってくる。

Hosho Ryo
中国・東北地方にある黒竜江省のチチハル出身。18年前に来日し、東京・足立区で中華料理店を開くが、2000年に移転。神田駅のガード下に東北料理専門店「味坊」を開店させた。料理店での修業経験はなく、母親の家庭料理から学んだ。
味坊

味坊
東京都千代田区鍛冶町2-11-20
03-5296-3386
● 11:00~14:30、17:00~23:00
● 日祝休
● コース 3000円~
● 80席


上村久留美=取材、文 依田佳子=撮影
text by Kurumi Kamimura photos by Yoshiko Yoda

本記事は雑誌料理王国第255号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第255号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。






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