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魯山人も認めた!京都・浜作の旬の素材の極め方


割烹という食様式は、昭和初期、祇園の「浜作」で誕生した。以来、世界の要人を招いて、本物にして最高の味を提供し続ける3代目に究極の技について聞いた。

「旨いものを食うなら浜作へ行け」
浜作は、芸術家にして美食家の北大路魯山人にこう言わしめた名店である。創業は昭和2年(1927)。老舗3代目のご主人森川裕之さんは、魯山人の言葉をこう分析する。
「『おいしい』という表現は余所行きな感じ。『旨い』には、本能的で瞬間的な感動がある。」
浜作から始まった〝日本のオープンキッチン〞「板前割烹」は、客が食べたい料理をその場で素早く調理するもの。「割」は火を使わない料理法、「烹」は火を使う料理法の意で、この両方を目の前の客に即興音楽のように提供する。手はずを整えて客を迎える料亭の料理と異なる板前割烹は、当時の料理界に革命をもたらしたといっても過言ではない。

超一級の素材を使い想像以上の旨さに仕上げる


魚介類や肉、京都の伝統野菜など、「浜作」の素材はすべて超一級品に限られる。つややかな鯛やぐじ、一般の流通では入手できないほど大きな海老芋や生ワサビ。客が目の前の食材の立派さに驚き、引き込まれた瞬間から、旨いものへの期待値は急速に高まる。そのイメージを超える料理を創り出すことが板前割烹の絶対条件。それをクリアし続けるからこそ、食通に愛され続けるのだ。

 調理の秘訣は、魯山人が語ったように、まさに今、旨いと感じる絶妙の味付けにある。たとえば海老芋でいえば、中まで味がしみているのはもちろんのこと、噛むと中は生成りの海老芋の味わいを残す。このように食材の旨さを引き出し、残したアクセントのある味付けこそが、板前割烹の真骨頂なのだ。
食材の「相性」と引き算がポイント

京料理の伝統を突き破ったとさえいわれる板前割烹だが、いっぽうでは日本料理の基本を忠実に守り続ける。そのひとつが食材の相性で、海老芋に棒ダラ、ニシンにナス、ハモにマツタケ、鴨にネギ、鳥肉にミツバ、鶉にセリ、鯛にカブラ、ブリにダイコンなど、何百年もかけて確立された食材の相性は、これからも受け継がれていくはずである。

 さらに今回、森川さんに伺って、興味深かったのは日本料理の「引き算」の考え方。たとえば霜降りは、沸騰した湯に一瞬くぐらせ、魚のアラや切り身の臭みを流水で洗い流す。「旨みを失うとして西洋料理ではあまり行いませんが、京料理では多少の旨みは失われても、素材のクセや生臭みを消すことを重視します」

またくわ焼などで、揚げたあとの素材を水で洗うのも、キクナを下ゆでするのも「引き算」の考え方。揚げる前に片栗粉と小麦をつけるが、片栗粉は素材の旨みを閉じ込めるコーティングの役割。その上にまぶした小麦粉は余分な油を含むので、煮る前に洗い流す。そのほうが、食材の味が際立つ仕上がりになる。
 革命と伝統――この二面性を含んで受け継がれてきた板前割烹の素材の極め方は、和食、洋食を問わず、ぜひ参考にして生かしたい。

「鯛のおつくり」。鮮度抜群で適度に脂がのり、身のしまった鯛は、まず刺身で味わう。ほのかな薄紅色が目にも美しい。

3代目 森川裕之さん
1962年生まれ。「浜作」で腕を振るう傍ら、自店で料理教室を主宰。伝統的な京料理から家庭料理、もてなしの心を伝える。

鯛カブラ 〜鯛の極め方〜

鯛のアラと相性のよいカブを組み合わせる。アラを霜降りにして上品な味わいに仕上げるのがコツ。

1.鯛をさばく。
鱗を尻尾のほうから頭に向かって落としていく。腹側から包丁を入れて開き、頭と身に切り分ける。身は三枚におろし、頭は、あごに切れ目を入れてふたつに割る。

2.アラを霜降りにする。
鯛のアラを沸騰した湯の中に入れ、さっと熱を通したら、流水でよく洗って生臭さをとる。

3.酒を入れて煮る。
アラを鍋に移し、酒を入れて、あくを取りながら煮る。

4.カブを茹でる。
別の鍋で、皮をむいて適当な大きさに切ったカブを水に入れて、ゆでておく。

5.土鍋にアラとカブを入れて煮る。
3のアラと4のカブ、ショウガの絞り汁を入れてだしで煮る。仕上げにユズを添える。


上村久留美=取材、文 村川荘兵衛=撮影

本記事は雑誌料理王国第221号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第221号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。






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